👩 妻のひとこと
「あの土地で、申し込もうと思う」——火曜日、夫はそう言いました。半年の土地探しで、いちばん悔しかった日は、そうやって始まりました。何があったのか、順を追って書きます。
📖 前回までのあらすじ
前話で、冷え込んでいた家づくりが動き出しました。頼んでもいないのに担当者からLINEで新しいプランが届き、日曜の打合せでは、夫が並べた細かい疑問に、ひとつずつ答えが返ってきました。「今週中に、結論を出します」——そう告げて別れた、その続きです。
日曜日の打合せで、私たちはようやく、担当者の説明に納得しました。前のプランでずっと引っかかっていたのは、駐車と駐輪が、この狭い土地に本当に納まるのか、でした。新しいプランでは、和室をなくし、キッチンの形を変えて、その場所がきちんととってありました。耐震等級や気密、工事の管理体制まで、夫が細かく挙げた疑問にも、ひとつずつ答えが返ってきました。
私たちが悩んでいたのは、この土地を買えるかどうか、ではありません。この土地でいいのか、でした。予算には、なんとか手が届く。それでも、課題の多いこの土地で、本当にいいのか。その迷いに、この日の説明が、区切りをつけてくれました。
打合せの席では「今週中に、結論を出します」と伝えていました。結論は、二日で出ました。翌々日の火曜日、私たちは担当者へ告げました。この土地で購入の申込みをします、と。
先に、お伝えしておきます。この土地を、私たちは手に入れられませんでした。ずっと悩んで、ようやく決めたのに、買えなかった。何があったのか、順を追って書きます。
返事は、一週間もいらなかった
打合せから帰ってからの夫は、間取りの話ばかりしていました。あの窓はこうしたい、この動線はこうならないか。少し前まで、この土地でいいのか、そればかりを気にしていた人が、もう、建てる家の中身に気持ちを向けていました。
この土地は、ずっと私たちを悩ませてきました。いいと思っては、どこかに引っかかる。見送っては、また戻ってくる。それを、何度も繰り返してきました。
火曜日、夫が言いました。
検討の時間は、もういりませんでした。気持ちは、とうに固まっていました。
課題はあった。それでも、決めた
正直に書けば、いい条件ばかりの土地ではありません。
敷地は33坪、広くはありません。北向きで、駐車スペースにも制限があります。前面道路までは、水道も引かれていない。数えれば、課題はいくつも出てきます。
それでも、いいところはありました。最寄り駅は、いま住んでいる家と同じ。そこから歩いて9分です。目の前には、神社の緑がある。桜の木です。こんな借景のある土地は、ほかにありませんでした。
もうひとつ、決め手がありました。半年近く探すうちに、自分たちの予算で買えるのは、どのくらいの土地なのか、見当がつくようになっていたことです。相場も、出てくる土地の質も、だいたい読める。その目で見て、この土地は、手の届く範囲ではいいほうでした。課題はあっても、手を伸ばす値打ちがある。そう思えたのは、半年、探し続けてきたからです。
仲介と、値段のこと
土地探しには、私たちなりに、ルールを決めていました。業者から紹介された土地は、その業者に仲介をお願いする。自分たちで見つけた土地は、夫の知り合いの業者に頼む。この土地は、自分たちで見つけたものでした。
一般的に、仲介手数料の上限は、売買価格の3%に6万円と税を足した額と、法律で決まっています。私たちからすれば、自分たちで土地を探しているのに、その満額を払うことには、抵抗がありました。それを、自分たちで探すことを条件に、税込55万円でお願いできることになっていました。業者からすれば、土地を探す手間がいらない。お互いに、悪くない話だと思います。
ただ、これは、夫がこの仲介業者と、普段から仕事で付き合いがあって、実現できた話でもあります。普通は、こうはならないのかもしれません。
値段についても、私たちなりの考えがありました。この土地の売り主は、法人です。1年以上、同じ値段のまま売り出されていて、一度も下がっていません。業者に聞くと、土地は3か月ほどで売り切りたいのが普通で、売れ残ればそのあたりで値を下げることが多いそうです。それに、たとえば○○80万円のように十万円台の端数がついていれば、交渉でそこを落としてもらえることもある。でも、この土地は○700万円。端数がありません。売り主に、値下げの気は薄いのかもしれない。そう聞きました。
それでも、少しでも安く買えないか、とは思いました。仲介業者には、○600万円で買いたいと伝えました。ただし、交渉が難しいようなら売り出し価格でも買います、とも添えて。
仲介業者は言いました。「売り側の業者に、売り主さんの感触を聞いてみます。交渉できそうなら、お願いしてみます」。そして、こう続けました。「○600万円と○700万円、二つの金額で、購入申込書をください」
数時間後の電話
二通の購入申込書を送ってから、夫は仕事のあいだ、連絡を待っていました。ここから先の電話のことは、あとで夫に聞きました。
数時間後、仲介業者から電話が入ったそうです。
「先週の日曜日に、○500万円台で、建て売り業者さんから購入の申込みが入っていたそうです。建て売り業者さんも買いたいと思うような土地なんですね」
「ただ、○500万円よりは、こちらのほうが高い金額を出しています。ですので、ひっくり返してもらえないか、いまお願いしているところです」
1年以上も動かなかった土地です。しかも、その先週の日曜日は、私たちが、この土地に決めようと打合せをしていた日でした。私たちが気持ちを固めていた、まさにそのとき、別の申込みは、もう入っていたのです。こんなことが起きるのか——夫は、お願いします、と返すのが精一杯だったそうです。
もう一度、電話が鳴った
それから、また数時間が過ぎて、二度目の電話が来たそうです。
「売買契約は、まだ結ばれていないそうです。ただ、業者どうしの取引なので、何でもありのようなところがあって……手付けのお金が、もう売り主さんの口座に振り込まれてしまったそうです。売り主さんの側も、会社としての判断で、撤回はむずかしい、と」
夫は、こう答えたそうです。
電話を切ったときのことを、夫は淡々と話していました。取り乱した様子は、なかったようです。
残ったもの
買うと決めた土地は、私たちのものになりませんでした。
私たちが購入を申し込んだのは、火曜日でした。けれど、建て売り業者の申込みは、その二日前、先週の日曜日に、もう入っていたのです。私たちが動いたときには、順番で、すでに後れを取っていました。金額は、こちらのほうが高い。それでも、関係ありませんでした。安く買おうと交渉したことが、間に合わなかった理由ではありません。申し込んだその時点で、もう手遅れだったのです。
売り主も、買い主も、法人でした。業者どうしの取引は、私たちが思うよりずっと速い。二度目の電話で聞いたときには、手付けのお金は、もう振り込まれたあとでした。
もっと早く決めていれば、と思わないわけではありません。完成見学会の帰り道に「見送りかな」となった、あのころ。あのときか、あるいはそれから一週間のうちに腹を決めていれば、建て売り業者より先に、手を挙げられたのかもしれません。
けれど、あのときの私たちには、決められませんでした。この狭い土地に、望んだ間取りがちゃんと収まるのか。駐車も、駐輪も、納まるのか。それが分かったのは、つい先日の、日曜の打合せです。そこではじめて、前に進めた。それより早くは、どうしても動けなかったのです。
だから、仕方がなかったのだと思います。悔しさは、あります。それでも、あのタイミングでしか、私たちには決められなかったのですから。
次の土地を探します。
📝 まとめ
- 「今週中に、結論を出します」と告げた日曜の打合せから二日、火曜日に神社前の土地へ購入を申し込むと決めた。半年の相場観で「手の届く範囲ではいいほう」と判断できたことが後押しになった
- 課題は33坪・北向き・前面道路まで水道が引かれていないなど。それでも、いまと同じ最寄り駅から徒歩9分、目の前に神社の桜の借景という条件は、ほかになかった
- 自分たちで見つけた土地は知り合いの業者に仲介を頼むルール。手数料は自分たちで探すことを条件に税込55万円。価格は○600万円で交渉しつつ、難しければ満額でも買うと伝え、2つの金額の購入申込書を出した
- 数時間後の電話で、先週の日曜——ちょうど私たちが「この土地に決めよう」と打合せをしていた日——に、建て売り業者から○500万円台の申込みが入っていたと知らされる。金額はこちらが上のため、ひっくり返せないか交渉を頼んだ
- 二度目の電話で、売買契約前ながら手付金がすでに売り主の口座へ振り込まれていたと判明。会社としての判断で撤回は不可。負けたのは金額ではなく、申込みの順番だった
- 駐車・駐輪の疑問が解けたのは日曜の打合せで、それより早くは決められなかった。悔しさは残るが、夫は「また次の土地を探します」と告げ、土地探しは再開へ
このブログについて
都市部で土地から注文住宅を建てる40代・4人家族の記録ブログです。賃貸10年の限界を感じた夫婦が、FP面談・住宅ローン事前審査・土地探しのリアルをそのまま書いています。同じように家づくりを考えている方のヒントになれば嬉しいです。
💬 よくある質問
- Q. 購入の申込みをすれば、その土地は買えるのですか?
- A. 買付証明書(購入申込書)は売買契約ではなく、法的な拘束力はありません。売り主が別の申込みを選べば、こちらの金額が高くても買えないことがあります。売買契約と手付金の授受が済むまでは、確定ではないと考えておくほうが安全です。
- Q. 土地の値引き交渉は、してもよかったのでしょうか?
- A. 売出しの期間、価格の端数、売り主が法人か個人かなどで、交渉の余地は変わります。今回は交渉と並行して「難しければ満額で買う」とも伝えており、買えなかった理由も金額ではなく申込みの順番でした。ただ、人気のある土地では、交渉に時間をかけること自体がリスクになる場合もあります。
- Q. 仲介手数料は、安くしてもらえるものですか?
- A. 仲介手数料は「売買価格の3%+6万円+税」が法律上の上限で、これを下回る分には問題ありません。自分で土地を見つけて持ち込む場合は、業者の探す手間が減るぶん、相談の余地が生まれることがあります。ただし、日頃の関係や業者の方針によるところが大きい話です。
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