👩 妻のひとこと
夫が伊礼智さんの本を何冊も持っていることは知っていましたが、私は名前すら知らずに見学に行きました。実際に平屋に立ってみたら、「あ、居心地がいい」が言葉より先に来ました。羽目板天井、永田格子の光、無垢のフローリング——写真や動画では伝わらないものが、実物にはあります。見学は、自分の物差しを作る時間でもあるのだと思います。
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土地探し中の気分転換に、少し前の話を振り返ります
土地探しを続けながら、合間に見学に出かけることがあります。今回は、2月下旬のある一日、家族で谷口工務店のモデルハウスをはしごした日のことを振り返ってみたいと思います。
きっかけはインスタグラムでした。「彦根の平屋モデルハウスが取り壊されます」という投稿が流れてきて、夫がすぐに予約を入れました。取り壊し直前に、伊礼智さん設計の家を実際に見られる機会——逃す手はない、と。オープンからまだ数年しか経っていないのに取り壊されてしまうのか、という気持ちも正直ありました。でも、だからこそ急いで会いに行きたかったのかもしれません。
結果的にこの日は、彦根から大津まで3か所のモデルハウスをめぐることになりました。土地探しの疲れを少し忘れられた、充実した一日でした。
そもそも「伊礼智さん」ってどんな建築家?
夫は伊礼智さんの本を何冊も持っていて、家の中のあちこちに積んであります。「伊礼さんの家はいいんだよ」と何度も言っていましたが、正直なところ、私はこの日まであまりよく知りませんでした。本を読んだことも一度もありませんでした。
1959年、沖縄県嘉手納町生まれ。琉球大学、東京芸術大学大学院を経て、1996年に伊礼智設計室を開設。「小さくても豊かに暮らせる家を、手の届く価格で」というポリシーのもと、心地よさと意匠性を両立した住宅設計で知られています。天井は低め(約2.2m)、照明は天井につけない、建築と家具を一体に考えるというスタイルが特徴です。「設計の標準化」を追求し、i-worksプロジェクト(2013年グッドデザイン賞)を主導。住宅デザイン学校の学長も務めています。
谷口工務店の代表・谷口弘和さんが伊礼さんに出会ったのは2012年のこと。伊礼さんに誘われて別の工務店のモデルハウスを見に行き、「雷に打たれたようなショック」を受け、「これからは伊礼イズムに沿った家づくりをやる」と全社員に宣言したというエピソードが残っています。そこまで惚れ込んだ建築家の家とは、いったいどういうものなのか。この日、ようやく自分の目で確かめることができました。
①彦根の平屋モデルハウス——取り壊し直前の見学
彦根ベルロード住宅博に2022年1月にオープンしたこのモデルハウスは、伊礼智さん設計による34坪の平屋です。コの字型の間取りで中庭を囲むように建物が配置されており、設計は伊礼智設計室、造園は荻野景観設計というコンビです。
訪れてみると、ハウジングセンター自体がまもなく閉鎖されるとのことで、来場者はほとんどいませんでした。広い会場にぽつりぽつりとモデルハウスが建っている、静かな雰囲気の中で、スタッフの方が丁寧に案内してくださいました。
実際に入ってみてわかった「心地よさ」
中に入って最初に感じたのは、「あ、居心地がいい」という、言葉にする前の感覚でした。天井は変則的な形をしているのに、まったく違和感がありません。むしろ、包まれているような、おさまりのよさを感じました。永田格子から差し込む光が時間とともに少しずつ動いて、それがまた気持ちよかったです。
木製サッシと羽目板天井の雰囲気は、写真や動画では伝わりきらないものがありました。木の質感、光の反射、空気のやわらかさ——「こういう家に住みたい」と思えたのは、実際にその場に立ったからだと思います。
ルイスポールセンのトルボーやAJランプといった照明、YチェアやニーチェアXなどの家具が、建物と一緒に空間の心地よさを演出していました。建築とインテリアは切り離せないのだと、改めて感じた場面でした。
実際に見ることで、自分の優先順位がはっきりしてきました。
ぜひ取り入れたい:木製サッシ、羽目板天井(空間の雰囲気・心地よさに直結する)
優先度を下げてもよい:ハーフユニットバス、造作家具(コストとメンテナンスを考えると、なくてもいいと感じました)
見学前はどれも漠然と「いいもの」として憧れていましたが、実物を見ると「これは絶対欲しい」と「これはなくてもいい」という感覚が自然と生まれました。これがモデルハウス見学の一番の収穫だと思います。
夫が見ていたもの、子どもが教えてくれたこと
夫はというと、漆喰の壁の仕上がり、床材の質感、置かれた家具の細部——そういったところに目がいっていました。私が「空間全体の心地よさ」を感じていた横で、夫は「素材と仕様の確認」をしていました。同じ場所を見ているようで、見ているものがまったく違います。でも、それでいいのだと思いました。
子どもはといえば、造作ソファに座り、そのまま寝転んでスマホゲームを始めました。「ちゃんと見学しなさい」と言いたいところですが、考えてみれば、これが一番正直な評価かもしれません。居心地がよくなければ、子どもはそんなにくつろがないはずです。
谷口工務店の動画サイトMOV-MOVには、伊礼智さん自ら解説するルームツアー動画が公開されています。夜のルームツアー(照明解説)や中庭のガーデンツアーも見られます。実際に訪問できなかった方はぜひ。
琵琶湖沿いを1時間弱ドライブして、大津へ
見学を終えると、夫が「大津の百町スタジオにも行きたい」と言い出しました。要予約のスタジオでしたが、その場でスタッフの方に相談したところ、快く予約を取ってくださいました。
彦根から大津まで、琵琶湖の東岸を走る1時間弱のドライブ。2月の湖面は静かで、空が広くて、車窓からの景色がずっと気持ちよかったです。土地探しの疲れが少し和らぐような、そういう時間でした。
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②大津百町スタジオ——たためる椅子との出会い
大津百町スタジオは、建築家・竹原義二さんが設計した、町家の雰囲気を持つスタジオです。谷口工務店で家を建てるお客さまの打ち合わせにも使われる場所で、インテリアショップ「+ROGOBA(プラスロゴバ)」を兼ねています。
+ROGOBAは、谷口工務店が運営する北欧家具・インテリアのショップです。「100年生きる家をつくる私たちが、そこで営まれる日々の暮らしまでを見据えたい」という思いから生まれたと知って、なるほどと思いました。建物だけでなく、その中の暮らしまで考えるのが谷口工務店のスタンスなのですね。
スタジオの中にはフィン・ユールの椅子が多数展示されていて、夫は目を輝かせながら一脚一脚を確認していました。アルネ・ヤコブセンのスワンチェアもあったように思います。夫が椅子の名前を教えてくれるのですが、私には半分くらいしかわかりません。
「たためる椅子」——折りたたみの概念が変わりました
そんな中で夫がとくに食いついていたのが、吉村順三の「たためる椅子」でした。「これ、見たことある! でも実際に座るのは初めてだ」と興奮しています。
「折りたたみ椅子」と聞くと、体育館のパイプ椅子を思い浮かべてしまいます。でも実際に座ってみると、そのイメージは一瞬で消えました。
建築家・吉村順三(1908〜1997)、建築家・中村好文、家具デザイナー・丸谷芳正の3人の共同ワークによって生まれた椅子です。1988年に八ヶ岳高原音楽堂の客席用として300脚が製作され、1990年に正式発表されました。吉村順三自身が「普通のフォールディングチェアは仮に座っているという感じだけど、このたためる椅子は本格的にちゃんと座れる椅子だ」と語った名作です。釘や蝶番などの金属を一切使わず、木製の留め具のみで作られています。一脚一脚が手加工の受注生産品で、注文から届くまで数か月〜1年ほどかかることも珍しくありません。
シートの角度が絶妙で、体がスッと収まる感覚がありました。ゆったりとした座面に肘かけの高さもちょうどよく、立ったり座ったりも自然にできます。折りたためることを、座っている間すっかり忘れてしまうような椅子でした。
私も実際に座りましたが、本当によかったです。家づくりを始めるまで、私は家具や雑貨にそれほど興味がありませんでした。でも、夫がよいと興奮しているものを一緒に見ていると、夫がよいと言う理由が、自分にも少しずつわかってくるのです。見学を重ねるうちに、そういう変化が起きています。
「これ、注文できますか?」と夫がスタッフの方に聞くと、「ネットでの注文になります」との返答でした。
③におの浜の家——麻と革の座り比べ、そして「建物も見てください」
百町スタジオでスタッフの方とお話ししていると、「近くのモデルハウスに、たためる椅子の麻バージョンがあります。よろしければ」と教えていただき、そのまま大津モデルハウス「におの浜の家」へ向かいました。外壁には「そとん壁」が使われており、伊礼智さんの設計思想を体現した「伊礼色」と呼ばれる仕様だそうです。
40代の私たちには、このモデルハウスの落ち着いた雰囲気がしっくりきました。和室があり、羽目板天井があり、吹き抜けもあります。やはり羽目板天井は自分の好みに合う——そのことを、この日2か所目のモデルハウスでも再確認しました。
ただ、中に入った瞬間、夫がまたしても家具に直行しました。「あ、アルテックのゴールデンベル! あれ、天童木工の低座椅子だ!」と大興奮しています。
私はそう言いましたが、夫はにこにこしながら椅子に座っていました。
そして肝心の椅子です。同じ「たためる椅子」の麻バージョンに座って、百町スタジオの革バージョンと座り比べてみました。どちらも素晴らしいのですが、私たち夫婦の結論は「革のほうが好み」でした。麻の自然な風合いも捨てがたいですが、革の座り心地のほうが体にしっくりきました。実際に座り比べてみないと、こういう感覚はわからないものです。
設計士の方にも対応していただき、施工エリアについても聞いてみました。彦根の工務店なので、私たちの住むエリアからは少し距離があります。「遠方のため出張費が割り増しになりますが、施工自体は不可能ではありません。四国や関東での実績もあります」とのことでした。
帰り道——夫のひと言
帰り道、夫に「今日どうだった?」と聞いてみました。
「いろいろ体験できて、楽しかったね。でも、遠くで施工するとなると、普段とは違う職人が施工する可能性もあるのかな。どうなんだろうね」
楽しかった、でも現実的なことも考えている——それが夫らしいところです。土地探しはまだ続いていますが、こういう一日がじわじわと家づくりの解像度を上げてくれていると感じています。
まとめ:見学は「自分の物差し」をつくる機会
- 2月下旬の一日、家族で谷口工務店の伊礼智さん設計モデルハウス3か所(彦根の平屋→大津百町スタジオ→におの浜の家)をはしごした
- 取り壊し直前の彦根の平屋モデルハウス(34坪・コの字型・中庭、伊礼智設計室+荻野景観設計)で、「言葉になる前の居心地のよさ」を実物で体感
- 谷口工務店代表・谷口弘和さんが、伊礼さんに出会って「雷に打たれたようなショック」を受け、「これからは伊礼イズムに沿った家づくりをやる」と全社員に宣言したエピソードが土台にある
- 大津百町スタジオでは、たためる椅子との出会い。家具が建物と一体に設計されている「伊礼イズム」を空間で実感した
- におの浜の家では、麻と革のソファを家族で座り比べ。スタッフから「建物も見てください」というひと言で、家具に集中していた視点が建物に戻った
- 帰り道、夫が「建物も家具も、見ないとわからない」とつぶやいた——写真や動画では伝わらないものに触れる、見学という時間の意味を、私も少し言葉にできるようになった
📌 これから家づくりを始める方へ:気になる建築家・工務店があれば、可能な範囲で実物の建物に足を運ぶことをおすすめします。間取り図や写真では分からない「天井の高さ」「光の入り方」「素材の手触り」「家具のサイズ感」が、自分の物差しを作る材料になります。
谷口工務店の動画サイトMOV-MOVでは、彦根の平屋・大津百町スタジオ・におの浜の家のルームツアー動画が公開されています。
▶ MOV-MOV(谷口工務店)
▶ +ROGOBA(プラスロゴバ)——谷口工務店のインテリアショップ










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