👩 妻のひとこと
夫婦で完成見学会に行き、理想に近い家と出会いました。費用も、私たちの予算のなかに納まっていました。それなのに、帰りの車で夫は「今回の話は、見送りかな」と言いました。何があったのか、その日のことを順番に書きます。
📖 前回までのあらすじ
第30話で、担当者から届いたラフプランに、夫と私はそれぞれ違う視点で疑問を書き込みました。夫は「駐車・駐輪・物干し・2階の廊下」が図面に納まるかを確かめたがり、私は「寝室と子ども部屋の入れ替え」で、神社の緑をいちばんいい部屋から見たいと考えました。ちょうど招かれていた別の物件の完成見学会に、この疑問を持って向かうことにしました。その続きです。
前の話で届いたラフプランには、確かめたいことが5つ残っていました。駐車、駐輪、物干し、2階の廊下、寝室と子ども部屋の入れ替え。ちょうどその頃、担当者から完成見学会への声がけをいただきました。
先に結末を書いておきます。疑問にはほとんど「可能ですよ」と答えてもらえて、費用も予算のなかに納まっていました。それなのに、帰りの車で夫は「今回の話は、見送りかな」と言いました。何があったのか、順番に書きます。
公園前の角地に、理想に近い家が建っていた
完成見学会には、夫婦と長男の3人で行きました。
家は、公園前の角地に建っていました。窓の外には、公園の緑が見えました。
玄関には大谷石、壁は漆喰、床は無垢の木。家の中は、ぐるりと回れる間取りで、駐車場は2台分ありました。リビングは2階にあって、そこだけは我が家の希望とは違います。それでも、私たち夫婦の好きなものを詰め込んだような家でした。
長男は、見学会にあわせて置かれた椅子に座って、くつろいでいました。
照明にも目が行きました。ラジオハウスのペンダント、VL38のフロアランプ、イサム・ノグチのAKARI。見学会のために工務店が置いたものだそうですが、部屋によく合っていました。実は我が家にも、同じVL38のテーブル版があります。私たちの好みと、この工務店の好みは、近いのだと思います。
トイレと風呂は既製品を使って、そこで予算を抑えているのも分かりました。我が家も、そこにお金をかける気はありません。お金をかける場所と、抑える場所。その考え方まで、重なっていました。
夫が、案内してくれた担当者に、建築費用を聞きました。返ってきた金額は、我が家が建物にかけられると考えていた予算の、上限ぎりぎりでした。
この家が、あの予算で建つのであれば、全然あり。私たちの気分は、はっきり上がっていました。
気分が上がっているのが伝わったのか、担当者から、先日のラフプランで建てた場合の費用感も説明できる、との提案がありました。
見学会の会場を後にして、工務店のモデルハウス兼打合せスペースに移動しました。
資金計画は、予算のなかに納まっていた
打合せの席には、長男も一緒につきました。
費用の提示は、総額をぽんと示すかたちではなく、資金計画のかたちでした。結果は、計画の総予算のなかに、ぎりぎりで納まっていました。
担当者からは、プランの説明もありました。1階リビングの外に、部屋と庭をつなぐデッキを設けたこと。ただし敷地の都合で、そこまで大きくは外に出せないこと。リビング・ダイニング・キッチンをあわせて約18畳あること。図面は実物の100分の1で描いてあるので、定規をあてて100倍すれば、実際の大きさが分かること。
費用の面では、買えない理由がありませんでした。
「どこまで聞いていいのか、分からないのですが」
ここからは、ラフプランで確かめたかったことを聞きました。夫は、こう前置きしました。「ラフプランの段階で、どこまで聞いていいのか分からないのですが」
まず、物干し。「洗濯物を干す場所が、ないですよね」「屋内干しの想定です」「南側は、1階より2階が狭くて下屋のようになっていますが、総2階にした上で、2階の一部をくり抜いて、そこに物干し場を設けられませんか」「可能ですよ」
次に、階段。「階段が建物の隅にあるので、2階に廊下が多い気がします。壁沿いの位置は変えずに、隅からもう少し中央寄りに動かして、廊下を減らせませんか」「パズルの組み合わせのようなものですので、勿論可能ですよ」
私も聞きました。前の話に書いた、私の宿題です。この家でいちばんいい眺めの神社の緑を、寝室から見たい。「夫婦の寝室と、子どもたちの部屋を入れ替えることはできませんか」「勿論可能ですよ」
夫は、動線の希望も伝えました。「いまの図面は玄関と階段が建物の反対側にあって、リビングとダイニングの間が通路のようになっています。うちは椅子などの家具が多いから、玄関と階段の動線を近づけて、LDKを広く使いたい。そうすると水回りが玄関側に納まらないので、風呂・洗面とトイレが離れても仕方がないと思うのですが——」
「契約後に、そういうお話を詳しくうかがって、実際の設計に反映していきます」
担当者は、ひとつずつ、疑問に答えてくれていました。答えに詰まる場面は、ありませんでした。
駐車と駐輪だけ、「できると思う」のままだった
残ったのが、いちばん気になっていた駐車と駐輪です。
「この土地は間口が8.5メートルで、縦列駐車した上で、その脇に玄関ポーチがありますよね。スペース的に、入らないのではないですか」
「駐車スペースは、かなり狭くなっています。玄関ポーチを後ろに下げることも検討したのですが、そうすると、建物本体のスペースが厳しいので」
「駐輪場が、見当たらないのですが」。実は、自転車を持っていることをまだ伝えていませんでした。それでも図面を見ていて、置き場がないことが気になっていました。
「駐輪スペースはありませんので、敷地の端に置いていただくことに……」
「雨ざらしは困りますね。デッキの下に置く手もあるかもしれませんが、縦列駐車の車のすぐ横になるので、自転車が倒れて車に傷がつくのも困ります」
「そうであれば、建物のスペースを下げることになると思います。検討すれば、1パターンか2パターンは、解決できる案が見つけられると思いますよ」
夫が、案を出しました。「いまのラフプランはⅡ型のアイランドキッチンですが、これをL型などにして、キッチン側のスペースを南に寄せれば、解決できませんか」
「そういう選択肢もありであれば、解決できると思います」
物干しも、階段も、寝室の入れ替えも、答えは「可能ですよ」でした。駐車と駐輪だけが、「解決できると思う」でした。「可能ですよ」と「できると思う」は、似ていて、違う言葉です。図面の上では、まだ誰も確認できていません。しかも駐車と駐輪は、あとから直せる仕上げや設備とは違って、毎日かならず使う場所です。
「2〜3箇所見て決める方も、いますね」
夫が、ずっと気になっていたことを聞きました。
「今はまだ契約していなくて、お金も全くお支払いしていない段階です。他のみなさんは、どのくらいプランを描いてもらってから、土地を決めているのでしょうか。私たちとしては、建物が敷地に納まるか分からない状態で決断するのが難しくて……決して安くない買い物ですし」
「土地に、希望する大きさの箱を置いただけで、具体的な間取りの提案がない状態で購入を決断される方もいます。おふたりは、すごくアクティブに土地探しをされていますが、お客さまのなかには、2〜3箇所土地を見られて、その中から決められる方もいますね」
私たちは、すぐに言葉を返せませんでした。
「今すぐは決められないので、また検討させてください」。そう伝えて、席を立ちました。帰り際に、夫がひとつだけ聞きました。
「もし違う土地を見つけた場合、もう一度くらい、プランを描いていただくことはできますか」
「勿論可能ですよ」
この日、何度目かの「勿論可能ですよ」でした。
帰りの車で
運転しながら、夫が話し始めました。
「工務店からすれば、契約前の段階で、プランの書き直しにまでコストをかけられないのは分かる。でも、契約してみて、実際に設計することになったら、希望の間取りが納まらない、では困る。どちらが良い悪いという問題ではないけれど、『解決できると思う』という言葉に乗ることはできない。今回の話は、見送りかな」
そして、こう続けました。
「勉強をしすぎて、面倒くさい客になってしまっているのかもしれない」
私には、夫とは違って聞こえていました。あの「2〜3箇所見て決める方もいますね」を、私は少しもイヤな言い方だとは感じていませんでした。実際にいるお客さんの話をしてくれた、と受け取っていました。夫にはあれが、これまでの自分たちの動き方を否定されたように聞こえていた。それを、車の中で初めて知りました。
第30話で、同じ図面を見ながら、夫は「納まるか」を、私は「どこでどう暮らすか」を見ていました。今回は、同じ一言を聞きながら、受け取ったものが違いました。
ただ、駐車と駐輪が図面の上で確認できていないことは、聞こえ方の問題ではなく、事実です。夫がそう判断したのなら、私から言うことはありませんでした。
契約前に、どこまで描いてもらえるのか
帰ってから、契約前の間取り提案が、一般にどこまでしてもらえるものなのかを調べました。
多くの会社で、契約前に無料で描いてもらえるのは、ラフプラン1案と、ざっくりした資金計画まで。そこから先の描き直しは、まったく受けない会社もあれば、3回くらいまでは無料という会社もあって、幅がありました。そもそも、土地が決まるまでは間取りを描かない、と決めている会社もあります。もっと細かく詰めるのは、数万円から10万円ほどの申込金を払って、正式に設計を頼んでから——というのが、大手でもふつうのようです。契約前の図面は、あくまで営業のためのサービスで無料、という扱いなのだと分かりました。
この物差しに当てると、今回の工務店の対応は、標準より手厚い部類だと思います。土地を買っていない客に、見学会の数日後にラフプランを無償で描き、資金計画を示し、質問にひとつずつ答えてくれました。暮らしの見学会と今回の完成見学会、見学会にも2回呼んでもらいました。
担当者は、本気で動いてくれました。同時に、工務店にも事情があります。まだ契約していない、お金をもらっていない相手のために、プランの検討にかけられる手間には限りがある。どちらも、本当のことです。契約の前に、無料で確かめてもらえることには、限界がある。私たちが欲しかったのは「この間取りが、この土地にちゃんと納まる」という確かめでした。それは、ちょうどその限界の、少し先にありました。
私たちの側から見ると、こうです。土地に納まるかどうかは、契約したあとの設計でないと、はっきりしない。でも、土地を買う決断は、その前に来る。誰かが悪いのではなく、順番の問題です。その順番の前で、私たちは足を止めました。
止まったのは、この工務店に不満があったからではありません。むしろ逆で、家も、費用も、好みも、これだけ合う相手はそういない、と思っていました。だからこそ、あいまいなまま前に進んで、あとで後悔したくなかった。担当者との縁が切れたわけでもありません。「違う土地が見つかれば、もう一度プランを描きます」という言葉は、そのまま残っていました。
この日のあと、我が家の家づくりは、進み方が変わりました。次回は、そのことを書きます。
📝 まとめ
- 担当者から声がけをいただき、夫婦+長男で完成見学会へ。ラフプランには確かめたい疑問が5つ残っていた(駐車・駐輪・物干し・2階廊下・寝室入替)
- 見学会の家は公園前の角地。大谷石の玄関・漆喰・無垢床・回遊動線(リビングは2階で、そこは我が家の希望とは別)。私たち夫婦の理想を詰め込んだような家で、建築費用は上物予算の上限ぎりぎり=「この家が予算で建つなら、あり」
- 打合せスペースで資金計画の提示。計画総予算のなかにぎりぎり納まり、費用面では買えない理由がなかった
- 物干し(総2階+くり抜き)は「可能ですよ」、階段位置・寝室と子ども部屋の入れ替えは「勿論可能ですよ」。動線の希望は「契約後に詳しく聞いて設計に反映」
- 駐車(間口8.5mで縦列+玄関ポーチ)と駐輪だけは「検討すれば1〜2パターンは解決できると思う」止まり。図面の上では誰も確認できていない
- 「2〜3箇所見て決める方もいますね」——夫には自分たちの動き方への否定に聞こえ、私には実例の紹介に聞こえた。同じ一言の受け取り方が夫婦で違った
- 帰りの車で夫は「『解決できると思う』には乗れない。今回の話は見送りかな」「勉強しすぎて、面倒くさい客になってしまっているのかもしれない」
- 契約前の無料提案はラフプラン+資金計画までが業界の標準的な範囲で、今回の工務店はむしろ手厚い。「敷地に納まる確証」はその上限の外側にあった。誰かが悪いのではなく、順番の問題
- 止まったのは工務店への不満ではなく、家も費用も好みも合う相手だからこそ、あいまいなまま進みたくなかったから。「違う土地が見つかればもう一度プランを描く」という担当者の言葉は残っている(次話以降へ)
このブログについて
都市部で土地から注文住宅を建てる40代・4人家族の記録ブログです。賃貸10年の限界を感じた夫婦が、FP面談・住宅ローン事前審査・土地探しのリアルをそのまま書いています。同じように家づくりを考えている方のヒントになれば嬉しいです。
💬 よくある質問
- Q. 契約前に、間取りプランはどこまで無料で描いてもらえますか?
- A. 会社によって幅がありますが、契約前の無料提案はラフプラン1案と資金計画(概算)までが一般的です。修正は無料では受けない会社から数回までの会社まであり、建築地が決まるまで間取りを描かない方針の会社もあります。詳細な検討は、設計申込(数万円程度)や仮契約を経てから進む形が多いので、どこからが有償になるかを早めに確認しておくと、お互いに進めやすくなります。
- Q. 完成見学会では、何を確認するとよいですか?
- A. 仕上げや空間の好みが合うかに加えて、実物を前に費用の水準を聞けるのが見学会の強みです。どこにお金を掛けて、どこを既製品などで抑えているかという配分の考え方は、図面やカタログより実物のほうが分かりやすく、自分たちの予算で何がどこまでできるかの物差しになります。
- Q. 土地の購入前に、建物が敷地に納まるかを確かめる方法はありますか?
- A. 駐車や駐輪、アプローチまで含めた配置図レベルの検討を依頼できるかが鍵になります。会社によっては、設計申込などの有償の仕組みを使うと、契約前でも踏み込んだ検討をしてもらえる場合があります。間口や高低差など条件が厳しい土地ほど、口頭の「入ると思います」ではなく、図面の上で確認してから決断する方が安全です。
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