👩 妻のひとこと
気にならないと言ったら、嘘になります。それでも、気にしても仕方がありません。土地を失った次の日には、私はもうランディを開いていました。そうして見つけた一件に、値下がりの表示がついていました。80坪。私は1人で、見に行きました。
📖 前回までのあらすじ
前話で、神社前の土地を失いました。私たちが購入を申し込んだ二日前に、建て売り業者からの申込みが入っていて、手付金も、もう売り主の口座に振り込まれたあとでした。金額はこちらのほうが高い。それでも、関係ありませんでした。負けたのは、順番でした。その続きです。
「残念ですが、仕方がありません」
一年以上、動かなかった土地でした。ずっと同じ値段で売り出されていて、一度も下がったことがない。その土地が、私たちが決めた週に売れていました。
いま振り返れば、買えたタイミングはありました。ラフプランが届いて、完成見学会に行って、それでも踏み切れずにいた、あのあたりです。あそこで購入申込みを出していれば、建て売り業者より先に手を挙げられたはずです。
けれど、あのころは、申し込めませんでした。駐車スペースが狭く、駐輪の場所も取れていなかった。あの狭い土地に本当に納まるのか、分からないままでした。分からないものに、数千万円の申込みは出せません。
これは、運が悪かった話ではないのだと思います。自分たちの判断の結果として、買えなかった。そういうことです。
前回の記事には「仕方がなかったのだと思います」と書きました。あの日は、そう自分に言い聞かせていました。数日経ったいまは、もう少しはっきり、そう思っています。あのとき決められなかったのは、私たちがまだ決められる状態になかったからです。
気にならないと言ったら、嘘になります。でも、気にしても仕方がない。
工務店の担当者には、私からLINEを送りました。
探してきたのは、抜け感
そのあとは、いつもどおりです。ランディを開いて、希望のエリアを順番に見ていきました。
私たちが最初に業者へ伝えた条件は、抜け感でした。窓の外に空が広がること。そこに駅からの距離と、予算と、広さと、学区が乗ります。何ヶ月も探すうちに、その抜け感は、公園や神社の前の緑という形になっていきました。
第一候補だった公園前の土地は、分筆されて50坪ほどになるはずでした。ところが売り出されたのは、未分筆のままの約100坪です。価格も見込みより高く、解体したあとに擁壁を作り直す費用も乗りました。確定測量には4ヶ月かかる。そのうえ、売り主側の業者の動きには囲い込みの気配がありました。手が届く抜け道はありましたが、夫は「できる、けれど、やらない」と決めて、諦めました。
神社前の土地は、そのあとに残った候補です。「少し狭いかも」で、ずっと踏み切れずにいました。もう一度見に行った日の午後、工務店の担当者から「一番面白い土地だと思っていました」と言われました。
だから、次に探す条件も変わりません。同じように見ていきます。
ただ、開けば分かることがあります。人気のあるエリアには、新しい土地がほとんど出てきません。
出てくるのは、前から載っているものばかりです。値段も、間取りに落とし込んだときの厳しさも、もう頭に入っている。何ヶ月も見続けると、そういう目になります。
そんななかで、一件だけ、目が留まりました。値下がりの表示がついていました。
80坪、緑、学区
開いてみて、まず広さに驚きました。80坪ほどあります。
神社前の土地は33坪でした。あの狭さのなかで、駐車と駐輪が納まるかどうかを、最後まで迷いました。和室をなくし、キッチンを壁付けに変えて、ようやく納まった。その二倍以上の土地です。
目の前には、緑があります。窓の外に空が広がる、あの抜け感があります。
学区は、小学校は変わりますが、中学校の区域は同じでした。子どもたちの年齢を考えると、引っ越しても転校の必要はありません。ここは、心配していたほどの問題になりませんでした。
駅までの距離は、後退です。最寄り駅まで徒歩14分。夫の通勤経路にある駅までは徒歩22分。神社前の土地は、いま住んでいる家と同じ駅から徒歩9分でしたから、明らかに遠くなります。近くはない。それでも、許容できる範囲ではありました。
1人で、先に見に行った
夫を待たずに、1人で行きました。
閑静な住宅街でした。ただ、新しく開かれた場所ではありません。昔からの住宅街です。周りに商業施設はありません。コンビニもスーパーも、歩いてすぐという距離にはない。
道は一方通行が多い。通り抜けの車は入ってきませんが、そのぶん、車の出入りの向きは選べません。
歩いていたのは、高齢の方が多かった。静かなのは、そのせいもあるのだと思います。同じ年頃の子どもがいる家は、あまり見当たりませんでした。
良い場所です。ただ、いまの暮らしとは、少し違う暮らしになります。
そして、敷地の隣に、擁壁が立っていました。二段になっていて、見上げる高さがあります。
夫婦で、もう一度
広くて、緑があって、学区も問題ない。それで相場より安い。そんな土地があるなら、理由があります。理由は、たぶんあの擁壁です。
ただ、1人で見てきましたが、その土地が良いのか悪いのか、私だけでは判断がつきません。だから、夫と二人でもう一度行きました。
擁壁を、二人で見た
かなり古いものでした。そして、水抜き穴がありません。
意外だったのは、見た目です。きれいなのです。水抜き穴がないわりに、崩れた様子も、はらんだ様子もありません。もともとの地盤が硬いのかもしれない、と思いました。
もっとも、それは私たちの見立てにすぎません。
前に見送った擁壁と、違うところ
私たちは以前、水抜き穴のない擁壁を理由に、一つの土地を諦めています。
60坪を超える、南向きの庭がある土地でした。森のような緑が見える、静かな住宅街。縁側から庭を眺められる場所です。あのとき、隣地との高低差にあった擁壁に水抜き穴がないことを、工務店の担当者が指摘してくれました。背面に溜まった雨水を逃がす穴がなく、土圧がそのまま擁壁にかかっている。倒れれば、隣の建物ごと、こちらに倒れてくるかもしれない。
予算も1,000万円を超えていました。けれど、見送った一番の理由は、そちらではありませんでした。安全が、家としての最低条件だから。そう書いて、私たちはあの土地から引き返しました。
→ 気に入った土地を見送った理由、水抜き穴がない擁壁のリスク
今回も、水抜き穴のない古い擁壁です。同じ理由でまた見送ることになるのか——現地では、そう思っていました。
けれど、調べてみると、二つの土地は同じではありませんでした。
がけ条例と呼ばれる決まりがあります。都道府県ごとの建築基準条例で定められていて、内容は地域によって違いますが、高さが一定を超えるがけの近くに建てるときは、がけの高さの2倍以上の水平距離を空けなければならない、というものです。ただし、安全上支障がないと認められる擁壁があれば、この距離は求められません。
前に見送った土地の擁壁は、おそらく許可を得たものでした。法律の上では、そのそばに家を建てられます。担当者からは、建物を隣地から離して道路側に寄せる案も出ましたが、そうすると敷地の形に対して不自然な配置になります。結局、水抜き穴のない擁壁のそばで暮らすことになる。だから、私たちは引き返しました。
今回の擁壁には、許可がありません。だから、距離を取らざるを得ない。
言い方を変えると、こうなります。前の土地は、建てられるから危なかった。今回の土地は、建てられないから離す。離すなら、危なくない。
許可がないほうが安全側に働くというのは、調べるまで思ってもみないことでした。
残る問題は、ひとつです。どの程度、離さなければいけないのか。
見上げる高さの擁壁です。その2倍を離すとなると、敷地のかなりの部分が空くことになります。しかも、その擁壁は場所によって高さが違います。素人にはメジャーも当てられませんし、二段になっているものを、どこからどこまでを一つの高さとして見るのかも分かりません。
高さが分からなければ、2倍の距離も分かりません。2倍の距離が分からなければ、残った場所に希望する大きさの家が建つのかどうかも、判断できません。
使える面積のこと
もうひとつ、この土地には敷地の中にも1.5メートルほどの段差があります。二段の宅地です。高さが2メートルに届かないので、がけ条例の対象にはならなさそうでした。ただ、法律にかからないことと、問題なく建てられることは別の話です。土留めをつくるのか、削るのか、盛るのか。どれを選んでも造成工事が要りますし、基礎も外構も、平らな土地より高くつきます。
敷地の奥のほうが高くなっているので、雨水がどこへ流れるのかも、確かめておかなければいけません。
ここまで見てきて、整理がついたことがあります。この土地の安さは、実際に使える面積が分からないうちは、安さとして数えられません。
80坪あっても、擁壁から離した残りにしか建てられないなら、使えるのはそのうちの一部です。土地の値段は80坪ぶん払うのに、使えるのはもっと少ない。実質の坪単価は上がります。
| 実際に使える面積 | 実質の坪単価 |
|---|---|
| 80坪(全部使える) | 表示どおり |
| 60坪 | 約1.33倍 |
| 50坪 | 約1.60倍 |
| 40坪 | 約2.00倍 |
半年見てきた相場と見比べると、私たちの場合、使える面積が50坪を切ったあたりで、割安な土地ではなくなります。
広い土地には、買ったあとに続く話もあります。固定資産税の住宅用地の特例です。住宅が建っている土地は課税標準額が軽減されますが、200平方メートル以下の部分は6分の1、それを超える部分は3分の1にとどまります。80坪は約264平方メートルですから、64平方メートルほどは軽減の薄い扱いになります。しかもこの税金は、建てられる面積ではなく、持っている面積にかかります。擁壁から離した分の、建物が建てられない場所にも、毎年かかり続けます。
予算は、180万円足りない
値下がり後の価格でも、私たちの予算を180万円オーバーしていました。
この180万円は入口の数字です。ここに造成の費用が乗ります。擁壁への対策が必要になれば、さらに乗ります。土器が出れば、その調査のぶんも。土地に払う額が増えれば、そのまま建物に回せる額が減ります。
値段については、考えたことがあります。
この土地は、擁壁や段差の問題が新しく見つかったから値下がりしたのではありません。もともと、それを織り込んだ値段で売り出されていました。それでも売れなかったから、下がったのです。
つまり、難あり分を引いた値段ですら、まだ高いと見られている。だとすれば、交渉の余地はあるのかもしれません。
ただ、前回のことが頭をよぎります。神社前の土地は、私たちが申し込んだときには、二日前に入っていた別の申込みで、もう決まっていました。負けたのは値段ではなく、順番でした。だとすれば今回も、値段を詰めることに気を取られて動きが遅れれば、同じことが起きるかもしれません。
急がなくていい理由はあります。80坪で、総額が張って、擁壁と段差があるこの土地は、建て売り業者が飛びつく形ではありません。前の土地のように、二日で決まるとは考えにくい。
急いだほうがいい理由もあります。一年動かなかった土地が、決めた週に売れたのを、私たちは見たばかりです。買い手が少ないから大丈夫。それは、前回裏切られた考え方でした。
どちらが正しいのか、いまの私たちには分かりません。
三つの質問
分からないことばかりでした。擁壁の高さも測れない。離した残りに、希望する家が建つのかも分からない。造成にいくらかかるのかも、水がどこへ流れるのかも、分かりません。
聞ける相手が、一人だけいました。土地は流れましたが、頼んでもいないのに新しいプランを送ってくれて、夫が並べた疑問にひとつずつ答えてくれた、あの担当者です。
夫が、気になっている点を書き出して、LINEを送りました。
担当者に送った、夫の質問
- 敷地の奥のほうが高いが、排水は問題ないか
- 既存の擁壁の高さから2倍離した場合、希望する建物が建つだけの広さが残るか
- 二段の宅地になっているが、造成に費用がかかるか
そのうえで、こう聞きました。この土地で、検討を進めてよいでしょうか。
打合せの前に疑問を書き出していた、あのときと同じです。
土地を探すのは私たちの仕事です。けれど、その土地に家が建つのかどうかを見極めるのは、私たちには手に負えません。買ってから建ちませんでしたでは、取り返しがつきません。
📝 まとめ
- 一年以上動かなかった神社前の土地は、私たちが決めた週に売れていた。ラフプランから完成見学会のころに申し込んでいれば買えたが、駐車と駐輪が納まるか分からず申し込めなかった。運ではなく、自分たちの判断の結果として買えなかったと考えている
- 担当者に「残念ですが、仕方がありません。次を探します」とLINEを送り、いつもどおりランディで希望エリアを確認。最初に伝えた条件は抜け感と駅からの距離で、探すうちにそれが公園や神社の前の緑という形になっていった
- 一件の値下がり物件を、まず妻が1人で見に行き、そのあと夫婦でもう一度歩いた。閑静だが昔からの住宅街で商業施設はなく、一方通行が多く、歩いているのは高齢の方が中心だった
- 安い理由は隣地の二段擁壁。古く、水抜き穴がない。ただし見た目はきれいで、崩れた様子もなかった
- 以前、水抜き穴のない擁壁を理由に60坪超の土地を見送っている。ただし前の土地は許可のある擁壁で、法律の上ではそばに建てられてしまうから危なかった。今回は許可のない擁壁なので、距離を取らざるを得ない。離すなら、危なくない
- 残る問題は、どの程度離すかだけ。がけ条例では、がけの高さの2倍以上の水平距離が必要とされる。擁壁の高さを素人が測れず、二段の高さをどう見るかも分からないため、残る広さに家が建つかを自分たちでは判断できない
- 敷地内にも1.5mの段差があり、造成費・基礎・外構は割高になる。使える面積が減れば実質の坪単価は上がり、50坪を切ると割安ではなくなる。固定資産税も200㎡超の部分は軽減が薄く、建てられない部分にも課税される。値下がり後でも予算は180万円オーバー
- 判断できないことばかりのため、夫が排水・離した後の広さ・造成費用の三点を書き出し、担当者にLINEで相談した
このブログについて
都市部で土地から注文住宅を建てる40代・4人家族の記録ブログです。賃貸10年の限界を感じた夫婦が、FP面談・住宅ローン事前審査・土地探しのリアルをそのまま書いています。同じように家づくりを考えている方のヒントになれば嬉しいです。
💬 よくある質問
- Q. 敷地が広ければ、そのぶん割安になるのでしょうか?
- A. 表示上の坪単価は下がりますが、実際に建物を建てられる面積が制限される土地では、実質の坪単価は上がります。がけ条例による後退、敷地内の高低差、接道の状況などで使えない部分が出る場合、総額を実際に使える面積で割り直すと、印象が変わることがあります。固定資産税は建てられない部分にもかかり、200平方メートルを超える部分は軽減が薄くなる点にも注意が必要です。
- Q. 隣の土地の擁壁でも、こちらの建築に影響するのですか?
- A. 影響します。がけ条例は、がけが自分の敷地にあるか隣地にあるかを問わず、建築物との水平距離を求めます。自分の所有物でない擁壁が、自分の家の配置を縛る形になります。将来その擁壁の改修が必要になったとき、誰が費用を負担するのかという問題も残るため、契約前に整理しておきたいところです。
- Q. 擁壁の高さは、誰が測るのですか?
- A. 工務店や設計者に現地を見てもらうのが確実です。とくに擁壁が二段になっている場合、上下を一つの高さとして合算するのか、別々に見るのかで結論が変わります。多くの自治体では、下の擁壁の位置から土質に応じた角度で線を引き、上の擁壁がその線より上にあれば一体として高さを合算する、という考え方をとっています。角度や運用は自治体によって異なるため、最終的には市区町村の建築指導や建築審査の窓口で確認することになります。
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