👩 妻のひとこと
同じ土地が、朝は「やっぱりやめておこうか」で、午後は「一番面白い」になりました。神社前の土地——一度は「少し狭いかも」と二人で見送りかけた、3番目の候補です。土地は一日のあいだ、ひとつも変わっていません。変わったのは、たぶん、こちらの見方の方でした。公園前を諦めた私たちの、その次の一日を書きます。
📖 前回までのあらすじ
第28話で、数ヶ月待った第一候補・公園前の土地を、私たちは諦めました。売り出されたのは聞いていた話と違う未分筆の約100坪、価格は予算を少し超え、確定測量に4ヶ月、売り主は分筆の交渉に応じる構えもない。直接動けば手が届く”抜け道”はあったけれど、夫は「できるけど、やらない」と決めました。
公園前のほかにあった候補は3つ。そのうち2つはもう売れて、残っているのは3番目——以前に一度、「少し狭いかもしれない」と二人で踏み切れなかった、神社前の土地でした。「不確実な話に期待するのは、やめよう」。そう決めた私たちは、その神社前の土地を、もう一度二人で見に行くことにしたのです。
ちょうどその頃、建てたいと思っている工務店から、暮らしの見学会の案内が来ていました。完成したばかりの空っぽの家を見る「完成見学会」ではなく、施主さんが実際に暮らしているお宅にお邪魔して、住んでいる様子を見せてもらえる会です。我が家が採用したいと考えている外壁を使った家だというので、参加を申し込んでいました。担当者と会うのも久しぶり。その見学会の日の、朝のことから書きます。
「サクラかもしれない」から始まった朝
見学会は午後から。少し時間があったので、朝のうちにもう一度だけ、神社前の土地を見に行くことにしました。散歩がてら、二人で。
土地は、小さな神社の真向かいにあります。境内に大きな木が何本か立っていて、私はそれが何の木か気になりました。スマホで撮って、AIに聞いてみる。返ってきた答えは、「サクラ」。
本当にサクラなのかは、分かりません。AIがそう言っただけです。それでも、もし本当なら、この家の窓からはサクラが見える。春は、家の中からお花見ができる。——土地に立って最初にしたのが、まだ建ってもいない家の窓の話だったことに、自分でも少し笑ってしまいました。
蚊、野良猫、そして猫よけのとげとげ
ところが、土地に立って次に気づいたのは、もっと現実的なことでした。
雑草がそれほど茂っているわけでもないのに、蚊がやたらと多い。見ると、夫の足にもう一匹止まっています。
夫は動物が得意ではありません。まして野良猫は、いちばん苦手です。言われて見回すと、近所の家々が、申し合わせたように敷地のふちへ猫よけのとげとげを並べている。一軒や二軒ではありません。通り全体が、猫に対してうっすら身構えているように見えました。
言ってはみたものの、夫の頭の中はもう、現場に積んだ木材の上を歩く猫でいっぱいのようでした。窓からのサクラで一度上がった気持ちは、蚊と猫で、きれいに元へ戻りました。
土地を見に行くと、いいところより先に、虫とか、猫とか、そういうことの方が目に入ります。短所は具体的で、長所はまだ想像の中にしかないからだと思います。
夫の不安は、間取りの形をしている
一度自宅に戻り、車で見学会へ向かいます。その車の中で、夫はずっと何かを計算していました。
ぶつぶつ、ぶつぶつ。神社前を一度「狭いかも」と見送りかけたのも、この奥行きと駐車が引っかかっていたからでした。
夫の不安は、だいたい間取りの形をしています。気が進まないときほど、頭の中で図面を引いている。このときの私は、それをただの心配性だと思っていました。午後になって、その心配性が別の顔を見せるとは、まだ知りません。
午後、田んぼに囲まれた平屋で
午後に着いたのは、ぐるりと田んぼに囲まれた郊外の土地でした。
今日のお宅は、我が家が採用したいと思っている外壁を使った家です。夫はさっそく壁に近づいて、質感を確かめている。予想どおりの感触だったようで、「これで問題ない」という顔をしました。気になっていた素材を、ショールームの見本帳ではなく、人が実際に暮らしている家で見られる。住んでからの壁を確かめられるのが、暮らしの見学会のいいところです。
敷地は150坪、建物は30数坪の平屋。広い芝生と植栽は、施主さんが完成後に自分で手がけたのだそうです。田んぼに囲まれた土地で日々を過ごすことは、自分たちにはうまく想像できません。それでも、こうして広い平屋に手をかけた庭のある暮らしには、あこがれます。
人は、自分が思い描ける暮らしの分だけ、その土地を「いい」と思えるのかもしれない。このときはまだ、ぼんやりとそう思っただけでした。
「公園前が、悪さをしていた」
家の中と暮らしぶりをひととおり見せていただいたあと、久しぶりに工務店の担当者と話す時間がありました。
私は、この数ヶ月のことを話しました。公園前は結局買えなかったこと。候補は3つあって、2つは売れてしまったこと。残っているのは神社前だということ。
担当者の返事は、思いがけないものでした。
担当
私たちが数ヶ月も本命だと思って待った土地を、この人は、むしろ足を引っぱる存在だと見ていた。そして私たちが「狭いかも」と見送りかけた土地を、「一番面白い」と言う。
朝、私たちが蚊と猫で見限りかけた土地と、同じ土地の話です。
段差は嫌だ、でも掘れない
ただ、夫にはこだわりがあります。
担当
神社前は、奥に向かって地面が上がっていく土地です。その高低差を、段差のある間取り(スキップフロアや2階リビング)で受けるのが、よくある解き方なのだと思います。でも夫は、それを避けたい。
担当
擁壁か、深基礎か。擁壁にあまり気が進まない夫が向かうのは、自然と深基礎の方でした。
深基礎は、基礎の立ち上がりを通常より深く・高くつくって、傾斜地などでも建物を安定した地盤で支える方法です。高低差のある土地で、擁壁を新設せずに高さを処理したいときの選択肢になります。ただし基礎が高くなるぶん、外から見たときの見え方(コンクリートの立ち上がりの大きさ)の処理が難しくなることがあり、外構やデッキでどう見せるかが工夫のしどころです。擁壁そのものについては、第27話でくわしく書きました。
弱点を、設計に変える
ここから、夫の様子が変わりました。
奥が上がっているという土地の”弱点”を、床を上げる理由に読み替える。上げた分の高さを、プライバシーと開放感に使う。朝あれだけ気にしていた駐車のことまで、ちゃんとその図の中に入っている。
さっきまでの心配性が、そのまま設計図に変わっていました。気が進まないときに図面を引く癖は、気が乗ったときには、こういう形になるらしい。
担当
「いいんですか? ありがとうございます!」と、夫婦そろって声を上げました。
同じ土地が、朝と午後で変わったこと
担当者と夫の話は、正直、半分くらいしか分かりませんでした。根入れの深さも、深基礎の見た目も、デッキの高低差も。それでも、ひとつだけはっきり分かったことがあります。
朝、私たちが蚊と猫と駐車で見限りかけた土地は、午後には「一番面白い土地」になっていました。そのあいだ、土地は何ひとつ変わっていません。変わったのは、そこにどんな家を思い描けるか、の方でした。担当者の一言と、夫の一案で、同じ土地の価値が、私の中で書き換わったのです。
それから、もうひとつ。
ここに来るまで私は、「夫のこだわりが強すぎて、担当者に嫌がられないかな」と心配していました。でも、その嫌がられそうなしつこさこそが、この土地を「一番面白く」している当のものだったのかもしれません。私が謝りそうになっていたものが、いちばん効いていた。
ラフプランが、楽しみです。土地は、まだ決めていません。それでも今日は、捨てかけた土地が、捨てるには惜しいものに見えてきました。それだけで、もう一度来た甲斐がありました。
📝 まとめ
- 朝は蚊・野良猫・駐車で見限りかけた神社前の土地が、午後には工務店の担当者に「一番面白い」と言われた。土地は変わっておらず、変わったのは「どんな家を思い描けるか」だった
- 公園前を諦め、一度は「少し狭いかも」と見送りかけた神社前の土地(3番目の候補)を、もう一度二人で見に行った
- 神社の木をAIに尋ねると「サクラ」。窓からサクラが見える暮らしを想像してテンションが上がるが、土地では蚊が多く、夫が苦手な野良猫も。近隣は猫よけのとげとげを設置していた
- 午後は工務店の暮らしの見学会へ。採用したい外壁を、実際に人が暮らす家で確認でき、夫も「これで問題ない」
- 工務店の担当者は「公園前が悪さをしていた」「神社前はこれまでの候補で一番面白い」と評価
- 夫は段差(スキップフロア・2階リビング)を避けたい意向。傾斜を掘り下げて平坦化は根入れの問題で難しく、擁壁か深基礎かの選択に
- 夫は深基礎で床を上げ、その高低差をデッキとプライバシー・室内の広がりに活かす案を提示。朝の駐車の心配まで設計に取り込み、担当者がラフプランを引いてくれることに
- 土地はまだ決めていない。次回は、そのラフプランを待つ
このブログについて
都市部で土地から注文住宅を建てる40代・4人家族の記録ブログです。賃貸10年の限界を感じた夫婦が、FP面談・住宅ローン事前審査・土地探しのリアルをそのまま書いています。同じように家づくりを考えている方のヒントになれば嬉しいです。
💬 よくある質問
- Q. 奥に向かって上がっている傾斜地。掘り下げて平坦にして建てることはできますか?
- A. 敷地を掘り下げて平坦にする方法は、隣接する土地(特に高い側の建物)の基礎の根入れ深さが不足するなどの理由で、できないことがあります。傾斜を活かす場合は、擁壁を設けるか、深基礎で安定した地盤まで基礎を届かせるといった対応が一般的です。どの方法が取れるかは敷地条件によって変わるため、建てたい工務店や設計者に早めに相談しておくと、間取りの前提が立てやすくなります。
- Q. 深基礎にすると、どんなメリットと注意点がありますか?
- A. 深基礎は、基礎を通常より深く・高く設けて、傾斜地などでも安定した地盤で建物を支える方法です。擁壁を新設せずに高低差を処理できる場合がある一方、基礎の立ち上がりが高くなるぶん、外から見たときの見え方の処理が難しくなることがあります。床を上げてできた高低差を、デッキやプライバシーの確保に活かす設計の工夫もあります。可否や費用は地盤調査と設計しだいなので、土地の検討が進んだ段階で確認するのが確実です。
- Q. 「暮らしの見学会」と「完成見学会」は何が違いますか?
- A. 完成見学会は、引き渡し前の完成したばかりの家を見学する会です。一方、暮らしの見学会は、施主が実際に住んでいるお宅を見せてもらう会で、家具のある生活感や、住んでから時間が経った素材の様子まで見られるのが特徴です。採用を検討している外壁や設備が、暮らしの中で実際にどう見えるかを確かめたいときに参考になります。
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