漆喰・無垢床・間接照明のリアルな印象
漆喰の壁は本当に気持ちいいのか、無垢床はメンテナンスが大変ではないか——憧れと現実のあいだで揺れながら、完成見学会で実際に触れてきた日の記録です。照明の話で「陰翳礼讃」という言葉が出てきたのが、妙に記憶に残っています。
- 漆喰の壁を触ってみたらどんな感触だった?天井のひび割れなどデメリットも正直にレポート
- チークの無垢床を歩いてみて感じたこと——「素敵だけど我が家の日常に合うのか」という迷い
- ルイスポールセンの照明と「陰翳礼讃」——担当者の言葉で気づいた「どんな光の中で暮らしたいか」という問い
- 「ここで建てたい」と思いながらも即決できない——「全部に感動しなくていい」と気づくまで
前回のあらすじ
28坪の完成見学会に参加した借景の力に感動し、坪単価の現実に向き合いました。外構・諸費用込みの上物総額3,500万円という数字に、夫婦で静かな帰り道を過ごした日のこと。今回は、同じ工務店の2棟目のモデルハウスで、漆喰・無垢床・間接照明の世界に足を踏み入れます。
ここで建てたいな。
そうだね。
いつもは隅々まで調べてから結論を出す人が、このときだけは気持ちの方が先に動いていたようでした。私も、めずらしく理屈より先に答えが出ていました。モデルハウスから帰る車の中で、夫がそう言ったんです。珍しいな、と思いました。ただすぐに、こうも言っていました。
でも他を見ないまま決めていいのかな……。
それがまた夫らしかった。
今回は、同じ地元工務店の別のモデルハウスを見学してきたときのことを書きます。漆喰の壁、チークの床、そしてルイスポールセンの照明——。素材と光の力を、これほど実感した場所はありませんでした。
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登場人物:直感派の妻と、調べ始めたら止まらない自営業40代の夫。都市部で土地から注文住宅を建てる4人家族の記録です。連載のあらましは 第1話 からどうぞ。
漆喰の壁にさわってみた——コストとひびの話も正直に
このモデルハウスは、内壁も外壁も漆喰仕上げでした。
中に入った瞬間から、「あれ、なんかいい」という感覚があったのですが、その正体が漆喰だとわかったのは担当者に教えてもらってから。言われてみれば、たしかにほかの家とはちがう質感があります。ざらりとしていて、でもなめらかで、光の当たり方でうっすら表情が変わる。
一方、夫はというと、玄関を入った瞬間から様子がちがいました。「漆喰だ」と小声でつぶやいて、壁に顔を近づけたり、角度を変えながらスマホで写真を撮り始めたり。私がまだ「なんかいいな」とぼんやりしている間に、すでに興奮していたんです。YouTubeで散々見てきた素材が目の前にある、ということなんでしょう。見ているものは同じなのに、出発点がぜんぜんちがう。
さわってみると、ひんやりとして、でも柔らかい感触がある。壁紙クロスとは根本的にちがう「素材感」がそこにありました。「これが漆喰か」と思いながら、しばらく壁の前に立っていました。隣では夫が担当者に「施工の厚みはどのくらいですか」と聞いています。
実際、このモデルハウスの天井にも、よく見ると細かいひびが入っていました。でも不思議と、まったく気になりませんでした。むしろ、「これが漆喰の経年変化なんだな」という感じで、空間の雰囲気に溶け込んでいる。ひびが入るかもしれない。コストもかかる。それはわかっています。でも、この壁に包まれた空間にいると、「それでもいい、採用したい」という気持ちが自然と湧いてきました。理屈というより、体が先に答えを出した感じです。
チークの無垢床は美しかった。ただ、我が家の暮らしに合うかどうかは悩む
床材はチーク(東南アジア原産の広葉樹。硬く耐久性が高く、油分を多く含むため水や腐食に強い。床材として使うと重厚感のある空間になります)でした。
踏んだ瞬間から、ちがいます。無垢材のしっかりとした感触があり、色も深みがあって、見るからに高級感がある。担当者に聞くと、チークは油分を多く含む木材で耐久性が高く、年月とともに色が深まっていく経年変化も楽しめる素材だそうです。
美しい、というのは間違いない。でも、その床の上に立ちながら、頭の中に浮かんでいたのは我が家の日常でした。ランドセルを放り投げる子ども達、食卓に広げっぱなしの教材、週末のごった返したリビング——。そういう暮らしと、このチークの床が、なんとなく結びつかなかった。
念のため補足しておくと、これはチークという素材が良い・悪いという話ではまったくなく、あくまで我が家のライフスタイルと合うかどうかという相性の問題です。チークは素材としての魅力が大きく、それはこの目で確かめました。
夫に小声で「うちには少し合わないかもね」と言うと、「そうだな」と返ってきました。でもすぐに、「チークって経年変化がすごくきれいらしいんだよな」とつぶやいていました。諦めているわけじゃない、ということはわかります。素材と暮らし方には相性があるのかもしれない——そう思い始めながらも、まだ心のどこかに引っかかりが残っていました。
チークについては、採用するかどうかより先に、「自分たちはどんな床材と暮らしたいのか」をもう少し時間をかけて考えてみようと思っています。
照明で部屋の空気が変わる——「陰翳礼讃」との出会い
このモデルハウスで一番長く立ち止まってしまったのは、照明の話です。
リビングに、ルイスポールセン(デンマークの照明ブランド。「光を直接目に入れない」設計が特徴で北欧デザインの代表格。1灯数万〜数十万円のハイエンドな照明です)のペンダントライトが吊られていました。私はその場で初めて名前を知ったのですが、夫は「あ、ルイスポールセンだ」とすぐに言いました。どこかでもう知っていたらしい。真上から照らすのではなく、低い位置からやわらかく光が広がって、空間全体がなんとも言えない落ち着きに包まれている。「やっぱり本物はちがうな」と夫がつぶやいていました。
我が家は賃貸で、ずっとシーリングライトで暮らしてきました。明るくて、便利で、特に不満もなかった。でも、この家の光の中に立ってみて、「不満がない」と「これでいい」は、ちがうんだと、なんとなく気づかされました。
「陰翳礼讃」という言葉を知った
担当者が「陰翳礼讃(いんえいらいさん)、という考え方があって」と言いました。谷崎潤一郎が書いたエッセイで、日本の美意識は「影」の中にこそある、という話——光と影のコントラストを生かす美意識として、建築や照明設計にも影響を与えている考え方だそうです。蛍光灯や電球でなんでも明るくしてしまった現代の家が、かえって失ってしまったものがある——という話でした。
その言葉を聞きながら、ふと賃貸のリビングが頭に浮かびました。蛍光灯の白い光の下で、家族4人が毎晩を過ごしているあの部屋。不満はなかった。でも、あの光の中で過ごしてきた時間と、今自分が立っているこの空間の空気が、あまりにもちがいすぎて。
モデルハウスのやわらかい光の中でその言葉を受け取ると、すとんと腑に落ちました。「明るくすること」だけが正解じゃなかったんだ、と。隣に立っていた夫を見ると、腕を組んでうなずきながら担当者の話を聞いていました。質問も飛ばさず、メモも取らず、ただ聞いていた。
帰り道——
あの照明の話、よかったね。暗さに美しさがあるって、なんか納得したわ。
照明の話というより、陰翳礼讃の話が、という意味だと思います。その場では「へぇ」と思っただけでしたが、家に帰ってから少し腑に落ちました。この照明のある空間で感じた「落ち着く」という感覚は、たぶんそういうことだったんだと。
夫はその夜、陰翳礼讃の文庫本をAmazonで注文していました。そういう人なんです。
翌朝——
Amazonから発送通知来てたけど?
あ、陰翳礼讃。
昨日の今日で早くない?
感動は鮮度が大事。
真顔で言うので、もう何も言いませんでした。
それまで照明の話になると「明るければいい」と思っていた自分が、「どんな光の中で夜を過ごしたいか」を考えるようになりました。夫の読書がきっかけで知識が増えていくのとは違う。感じ方が、少し変わった——それが私の収穫でした。
家を建てるまで、照明についてこんなふうに考えたことは一度もなかった。でも今は、「どんな光の中で毎日を過ごしたいか」という問いが、頭の片隅に静かに残り続けています。
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このモデルハウスは、理想を詰め込みすぎていた
漆喰の壁、チークの床、ルイスポールセンの照明。あちこちに本物の素材が使われていて、空間全体から「本気でつくられた家」という緊張感のようなものが伝わってきました。
同時に、「このまま全部採用したら予算がどうなるんだろう」という現実の声も、頭の片隅でちゃんと聞こえていました。
担当者に率直に聞いてみると、モデルハウスはいわば「全部載せ」の空間であることが多く、実際の施工では予算や好みに応じて素材を選んでいくとのこと。漆喰を一部の空間だけに使う、床材を変える、照明はブランドにこだわらず雰囲気を優先する——そういう組み合わせが現実的な家づくりなんだそうです。
それを聞いて、少し肩の力が抜けました。全部に感動しなくていい。「この素材の何が好きなのか」をひとつひとつ自分たちで確かめながら選んでいけばいいのだと、素直に思えました。
やっぱり、ここで建てたい。でも——
見学の帰り道、慎重派の夫がそう言いました。私も同じ気持ちでした。
ここで建てたいな。
でも他を見ないまま決めていいのかな……。
気持ちは傾いている。でも、比べずに進んでいいのかという落ち着かなさも残っている。しばらく話し合いながら、次の一手を考えていくことになりそうです。
- 漆喰の壁は、コストや経年変化のデメリットを聞いた上でも「採用したい」と感じた
- チークの床は美しいが、我が家の日常の暮らしと合うかどうか、もう少し考えたい
- 照明で空間の空気がこれほど変わると知らなかった。「陰翳礼讃」という考え方も初めて知った
- モデルハウスは全部載せの空間。全部を採用しなくてもいい、という気づきで少し楽になった
- 「ここで建てたい」という気持ちは強まっている。でも他と比べないまま進んでいいのか、夫婦で悩んでいる
📌 同じ状況の方へ:自然素材に興味があるなら、実物に触れる機会を早めにつくるのがおすすめです。写真や動画ではわからない「手触り」や「空気感」が判断の軸になります。モデルハウスは全部載せの空間なので、「自分たちに必要なもの」と「憧れ」を分けて見る意識があると冷静に選べます。
次回は、担当者が手がけた完成見学会レポートです。平屋・ピットダウンリビング・上物5,200万円——「お金をかけるところと締めるところ」という設計思想に、夫がひどく納得していた話をお伝えします。
漆喰や無垢床、気にはなるけれど「手入れが大変そう」と感じている方も多いのではないでしょうか。実際に暮らしていらっしゃる方のお話、いつか聞いてみたいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
工務店・ハウスメーカーの選び方をまとめ記事で体系的に解説しています。見学会の回り方・比較ポイント・契約前チェックリストまで詳しく解説。
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- 漆喰はひび割れの可能性あり・初期費用も高いが「リビングだけ」など部分採用という選択肢がある
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- モデルハウスの全てを採用する必要はない。「何が好きか、なぜ好きか」を言語化して持ち帰ろう
📌 次にやるべきこと:工務店選びの比較ポイントを体系的に知りたい方はこちら。
👉 工務店の選び方まとめ|注文住宅パートナーの見つけ方
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💬 よくある質問
- Q. 漆喰の壁は本当にメンテナンスが大変?
- A. ひび割れは下地の動きや漆喰自体の乾燥収縮などで起こりますが、左官職人による部分塗り直しで補修できます。ビニールクロスより初期コストは高めなので、リビングだけ部分採用するなど予算と折り合う方法もあると見学会で教わりました。
- Q. 無垢床ってメンテナンスは大変?
- A. 合板フローリングより手間はかかります。仕上げによってメンテナンス内容が変わり、オイル仕上げならオイルの再塗布(半年〜1年に1回が目安)、蜜蝋ワックス仕上げならワックス掛け、ウレタン塗装なら日常メンテは比較的少なめです。共通して、湿気による反りへの注意や傷の対応も加わります。ただ無垢材は表面を削って傷をリペアできる強みがあり、年月とともに味が出る経年変化も無垢ならではの魅力。我が家もチークの床に触れてみて、手間と質感のバランスをどう取るかを考えるきっかけになりました。
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