👩 妻のひとこと
2社目の物件は「もう少し待って」、5社目の33坪は夫が「狭い」、夫が組んだドライブ内見の最後は1500万円オーバー——どこにも答えのない一日でした。それでも、車中で口にした「60点の土地でも、建物と合わせて100点を目指せばいい」という言葉が、その後の私たちの判断軸になっていきました。理想と予算の綱引きは続きますが、その綱引きこそが家づくりの本体なのかもしれません。
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2社目から届いた、「もう少し待ってください」
前回の終わりに書いた通り、週末に夫と一緒に33坪の土地を見に行く予定を立てていました。でもその前に、2社目から夫のもとへメールが届きました。
2社目が以前から「紹介できるかもしれない」と話してくれていた物件——売主の兄弟間で、売却するかどうかの方向性がまだまとまっていないという連絡でした。メールにはこう書かれていました。
「先日お話しさせて頂きました土地の件ですが、ご兄弟で売却に関しての方向性を悩んでみえるようで、もう少し考える時間が欲しいとのことでした。お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんが、いましばらくお待ちくださいませ。」
夫が詳しい状況を問い合わせると、「売主からのお返事は概ね2週間から3週間程度になるかと思います」という返答でした。
また、待ちになった。
2社目の物件は、ずっと「紹介できるかもしれない」という言葉とともに、わが家の候補リストの筆頭に置かれてきた物件です。売主の事情があること自体は理解できます。でも、待っている側としては、いつまで待てばいいのかわからない状態が続いているのも正直なところでした。
手元に残った具体的な候補は、5社目から紹介された33坪の土地。まずは、そちらを見に行くことにしました。
土曜日——3人で歩いて、神社の土地へ
土曜日の午前中、夫と下の子どもの3人で、33坪の土地を見に行きました。最寄り駅は今と同じ駅で、自宅から徒歩15分ほどの距離。車は使わずそのまま歩いて向かいました。
住宅街をぶらぶら歩きながら、道順を確認しつつ現地へ。子どもを連れているので、ゆっくりしたペースです。
土地の前に着いたとき、最初に目に入ったのは道路を挟んだ向かいの神社でした。小ぢんまりとした、地元の氏神さまといった雰囲気の神社です。境内には紅白の幟が何本も立っていて、風にゆっくりと揺れています。
ちょうど、1〜2歳くらいの小さな女の子を連れた夫婦が神社の境内をゆっくり歩いていました。特に参拝するでもなく、近所の公園代わりに散歩しているような、のんびりした雰囲気です。なんとなく、微笑ましい光景でした。
神社が目の前にある、というのは悪くない、と私は思いました。将来にわたって建物が建つ心配がない。リビングから窓越しに緑が見える。静かな抜け感がある。
「寂れた感じだね」——夫と私のズレ
ただ、夫の反応は少し違いました。
寂れた感じだね。
言われてみると、確かに神社の屋根や建物には、劣化が進んでいる箇所が目につきます。手入れが行き届いている雰囲気、とは言えないかもしれません。
周りの雰囲気も微妙な気がする。
私はそうは思いませんでした。普通の住宅街です。特別に高級なわけでも、特別に寂れているわけでもない、ごく一般的な生活感のある街並みです。
ただ、夫がそう感じるのはわかる気もします。夫は家のしつらえやデザインに対するこだわりが強く、住環境にも自然と高い基準を持って見てしまうのだと思います。それ自体は悪いことではありません。でも、わが家には予算というものがあります。
どう?
うーん。どうかな。
結論は出ないまま、私たちは土地の周りを一周して、帰り道を歩き始めました。
北向きの土地と聞くと、日当たりが悪いイメージがあります。ただ、北向き土地ならではのメリットもあります。南側に道路がある南向き土地より価格が低くなりやすく、道路からリビングへの視線が入りにくいためプライバシーが確保しやすい点が挙げられます。また、設計の工夫次第で採光の問題は大きく改善できます。吹き抜けや天窓、高窓を使うなど、北向き土地を前提にした設計プランは多くの工務店・設計士が経験を積んでいます。「北向き=NG」と決めつけず、設計でカバーできる可能性も含めて検討するのがおすすめです。
焦りはじめていた、私
歩きながら、私は正直な気持ちを整理していました。
ここで十分じゃないか、と思い始めていたのです。
予算内、駅から徒歩15分、学区は変わってしまうけれど、静かな住宅街で、目の前に神社がある。33坪という広さも、4人家族が暮らすのに十分な広さです(第20話のtip参照)。もちろん満点の条件ではないけれど、すべてに満点の土地なんて、わが家の予算では存在しないのかもしれない。
ネットで調べると、一般的に土地探しにかかる期間は2〜3ヶ月という情報が多く出てきます。わが家はすでにそれを超えています。その間、建築費は上昇し続けています。いつ動いても「あのとき決めておけばよかった」と思う可能性はゼロではありません。
どこかで折り合わないといけない。それは頭でわかっていました。でも、夫の「うーん」
がいつまでも続く限り、折り合いの場所が見つからない。そのもどかしさが、少しずつ積み重なっていました。
翌日——夫が組んだ、4箇所のドライブ内見
33坪の土地から帰った土曜日の夕方、夫から「明日、見たい土地がいくつかあるから付き合って」と言われました。
翌日曜日の朝、車に乗り込むと、夫はすでにカーナビに目的地を複数入力していました。
「いくらの土地なの?」と聞くと、夫は少し考えてから言いました。
——高いのはわかっている。でも、見に行く。その割り切り方が、夫らしいといえばらしい。
4箇所、夫と一緒に車でまわりました。どの土地も、希望しているエリアの中にありました。住環境は申し分ない。間口も広く、土地の広さも十分。駅からの距離は7分から17分の範囲で、いずれも許容範囲です。周辺に公園や神社が接しているわけではありませんが、緑が多く、雰囲気は落ち着いていました。
土地の前に着くたびに、私は夫に聞きます。「いくらなの?」。夫はそのたびにスマホを取り出して、ネットで価格を確認します。
どの物件も、わが家の予算を大幅に超えていました。以前に擁壁の問題で見送った土地(あのとき「値引きがないと買えない」と言っていた土地)と、同等かそれ以上の金額です。
途中、私が物件情報サイトで気になってブックマークしていた物件も2つあったので、「ここも寄ってみて」とお願いしました。現地を見た夫の反応は、いつも通りでした。
うーん。
判断基準が、どこにあるのかわかりません。高いとわかっていながら見に来て、私が見ていた物件には「うーん」と言う。夫の中に基準はあるはずなのですが、それがまだ言語化されていないのか、私には見えていないのか。
車中の住宅ローン論——そして私の反論
移動中の車の中で、夫がぽつりと話し始めました。
「住宅ローンは30数年で組めるけど、現役で働けるのって正直20年くらいだよな」「その20年で、ローンを払いきれるだけのお金を貯めるとなると、毎年数百万円を貯め続けないといけない計算になる」「でも、20〜30年もすればインフレも進んでいるから、お金の価値も変わって、案外なんとかなるのかな……」
内心で思いました。また、よくわからない話が始まった、と。
夫が不安を言語化しているのはわかります。でも、その不安の向かう先が、なぜか「予算を上げる方向」に毎回つながっていくのが不思議でした。
私は、落ち着いて返しました。
将来のことはどうなるかわからないよ。わからないことに賭けるのは怖い。土地にお金をかけすぎると、建物で我慢しないといけなくなる。60点の土地でも、建物と合わせて100点を目指した方がよくない?
夫は、しばらく黙って前を向いていました。
うーん……。
注文住宅では、土地と建物の予算配分が最終的な満足度に大きく影響します。土地に予算をかけすぎると、建物のグレードや仕様で妥協
が必要になります。逆に、建物にこだわりが強い場合は、土地の予算に上限を設けておくことが重要です。一般的に「土地代は総予算の3〜4割以内」という目安が語られることもありますが、エリアによって大きく異なります。大切なのは「土地と建物を合わせていくら使えるか」を先に決め、その枠の中で優先順位をつけることです。
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「ここはいいね」——でも、1500万円オーバー
夫が行ってみたいと言った最後の物件。最近開発が進んでいるエリアの一角で、駅からすぐの場所にある土地でした。
ゆとりのある区画割りで、道路幅も広く、周囲の建物との間隔も十分にとれています。視線の抜けがある、開放感のある立地でした。
夫が言いました。
珍しく、夫から「どう?」と聞いてきました。確かに、見晴らしも雰囲気も、この日見た中では一番だと思います。
「いくらなの?」と聞きました。
わが家の予算より、1500万円オーバーでした。
なぜ、この土地を今日の候補に入れたのか。正直、よくわかりませんでした。最初から「高いよ」とわかっていた物件の中に、さらに大きく外れた物件が混じっていた——どこかで「もしかしたら」という気持ちがあったのか、それとも比較対象として見たかったのか。
聞けませんでした。正午を大きく過ぎていました。下の子どももそろそろ限界です。
「今日はどうだった?」——「うん」
家の近くに戻ってきて、車を降りるとき、夫が言いました。
「今日はどうだった?」
私は、一言だけ返しました。
「うん」
疲れていました。夫が組んだ4箇所と、現地で寄ってもらった私のブックマーク2件——合わせて6箇所まわって、どれも予算オーバーで、夫は「うーん」しか言わなくて、最後の物件は1500万円オーバーで。正午を過ぎても帰れなくて、子どもも機嫌が悪くなってきていて。
「うん」以外の言葉が、出てきませんでした。
でも、車から降りながら、少しだけ思ったことがあります。
夫は今日、自分でカーナビを入力して、休日に家族を連れ出して、土地を探し続けていた。「うーん」しか言わなかったけれど、家のことを考え続けているのは確かです。前回、夜にズボンにくっつき草をつけて帰ってきた夫と、同じ人です。
言葉にならない「うーん」の中に、夫なりの真剣さがある——そう思うことにしました。
理想と予算の、終わらない綱引き
この週末を経て、私の中で少しだけ考えがまとまってきた気がします。
夫は、家に対して本当に高い理想を持っています。それはこの家づくりの大きな原動力でもあるし、私もそこに共感しているから一緒に進んできました。でも、理想だけを追い続けていると、予算という現実との距離が縮まらない。
「60点の土地でも、建物と合わせて100点を目指す」——あの車の中で言った言葉が、今も頭に残っています。完璧な土地がないなら、設計と建物でカバーする。それが注文住宅の強みのはずです。
2社目からの返事は、まだ2〜3週間かかります。5社目から紹介された33坪の土地は、まだ候補として残っています。土地探しは、もう少し続きます。
間取りを検討している方は、あわせて注文住宅の間取りチェックリスト98項目もご覧ください。有効幅の罠や見落としポイントを、打ち合わせ前にチェックしておきたい視点で整理しています。
- 2社目の「もう少し待って」のメールで、再び待ち時間モードに突入。手元の候補は5社目から紹介された33坪の神社前の土地のみ
- 土曜日に夫婦+子で神社前33坪を見学。夫は「寂れた感じだね」「周りの雰囲気も微妙」と否定的、私は普通の住宅街と感じた——同じ土地でも夫婦の評価軸がズレていることが浮き彫りに
- 翌日曜日、夫が独自に組んだドライブ内見4箇所はすべて予算オーバー。私のブックマーク物件にも「うーん」しか返ってこず、判断基準が見えないもどかしさ
- 車中で私から提案した「60点の土地でも、建物と合わせて100点を目指せばいい」が、結果として夫婦のその後の判断軸になった
- 最後に見た「ここはいいね」と夫が言った土地は、予算1,500万円オーバー。理想と予算の綱引きは続くが、夫が休日に家族を連れて現地を回り続ける姿勢自体が、夫なりの真剣さだった
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- Q. 候補土地が1社しかなくなったら、どう動くべき?
- A. 一度業者数を増やすか、エリアを広げるかの判断時期です。我が家も停滞期に夫が4箇所のドライブ内見を組んで、土地探しを再起動しました。
- Q. 北向きの土地は本当にデメリットだけ?
- A. 一概には言えません。北向き土地(道路が北側)は、南側にリビングや庭などのプライベート空間を配置でき、道路からの視線が直接届かない利点があります。日当たりは南側の隣家との距離・高さに左右されますが、吹き抜け・天窓・高窓・中庭など設計の工夫で採光を補えます。ハウスメーカー・工務店・設計事務所いずれも北向き土地での設計実績を持っているところが多いので、相談先で対応可否が大きく変わるわけではありません。価格が南向きより抑えられる分、建物に予算を回せる利点もあります。








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