帰りの車の中で、夫がぽつりと言いました。「もう少し早く、ちゃんと考えておけばよかったな」と。9,000万円という上限が見えた。でも、そのなかでエリアを妥協せず、仕様を下げず、すべてを諦めずに進められるかといえば——それはまた別の話でした。翌朝6時に起きたら、夫がテーブルに駅からの距離別の土地相場をメモに書き出していました。重さを受け取った夜のうちに、もう次の一手を考え始めていた。そういう人です。
前回のあらすじ
2回目のFP面談で、テーブルに2枚のシミュレーション表が並びました。総予算9,000万円と7,000万円——月々の差は7万円でした。
「NISAの積み立ては、ローン返済中は難しい前提で計算しています」という一言が、予想外に重く響きました。数十年間ずっと止める、ということ。金利2%の前提への疑問も残したまま、帰り道に夫が「マンションという選択肢もあるかもね」とぽつりと言いました。
今回は、9,000万円でも希望通りには建たないという現実に向き合った後半です。
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- 総予算9,000万円でも希望のエリア・仕様では足りない?FPの説明で見えた現実
- 「収入が下がる前提で70代後半まで返済」——自営業のシミュレーションが突きつけた現実
- 予算を下げるなら何を諦める?夫婦が向き合った優先順位の問題
- 2回目のFP面談を終えて、夫婦の間で変わったこと・変わらなかったこと
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👫 登場人物: 直感派の妻と、調べ始めたら止まらない自営業40代の夫。都市部で土地から注文住宅を建てる4人家族の記録です。連載のあらましは 第1話 からどうぞ。
キャッシュフロー表とNISA利回り3%——夫婦で意見が分かれた瞬間
こうして前編で集まった情報は、キャッシュフロー表に落とし込まれました。年齢・西暦ごとに収入・支出・貯蓄残高が並び、子どもの進学タイミングや老後の生活費も組み込まれた表です。FP協会か何かが作ったフォーマットのように見えました。内容はよく理解できましたが、どこが作成元なのかは最後までわかりませんでした。
現在保有しているNISAの残高がどれくらいの利回りで運用されるかもシミュレーションされていました。FPが提示したのは3%。「過去の利回りはもっと高かったけど、将来のことは分からないので、保守的に3%で見積もった」という説明でした。
ここで夫が動きました。
テクノロジーの指数関数的な発展を考えると、将来の利回りは過去を上回る可能性が高い。もう少し高い利回りでも計算してほしい。
私はすぐに止めました。
あなた、経済の専門家でも株式の専門家でもないでしょ。根拠のない勘でローンの額を決めるのは怖い。保守的にして。
FPは複数のシナリオを見せてくれました。3%のシナリオでも、今の条件が変わらなければ何とかローンは支払えそうだということはわかりました。ただ、収入・金利・支出・利回りのすべてが同時に変わらないことはあり得ません。私はやはり保守的に計算するべきだと思いました。
これほど複雑な計算は、専門家に頼まないと自分たちではとてもできない——そう実感した時間でした。
9,000万円でも、希望通りの家が建つとは限らない
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2回目のFP面談で「9,000万円でも足りない」と言われた日のキャッシュフロー。NISAを止める重さと、繰り上げ返済の優先順位の話は、まとめ記事で全体像を確認できます。
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面談の終盤、ふとそういう感覚が来ました。
NISAを止めて、収入が下がることを前提に、9,000万円のローンを70代後半まで返し続ける——。それだけのことをしても、「希望通りの家が建つかどうかはわからない」のです。土地のエリアを妥協するか、建物の仕様を下げるか、あるいはその両方か。9,000万円という数字は、上限であって、ゴールではない。その数字の中でも、どこかを諦める選択は続く。そのことが、この日はっきりわかりました。
夫は口を結んで表を見ていました。いつもなら矢継ぎ早に質問が飛ぶのに、この時間は静かでした。それがかえって、この場の空気の重さを表していた気がします。
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もっと早く、きちんと考えておけばよかった
帰り道の車の中で、少し沈黙が続いてから、夫が言いました。
もう少し早く、ちゃんと考えておけばよかったな……。
同じことを思っていました。
40代になるまでの間、「いつかそのうち」と先送りにしてきた問いがあります。一生賃貸で暮らし続けるのか、自分たちの家を持つのか。賃貸暮らしに大きな不満があったわけではなかったけれど、子どもたちの成長に伴って「そろそろ決めなければ」という気持ちが高まり、ようやく動き始めた。
でも、もし10年前に同じ問いと向き合っていたら——同じ期間のローンを組んでも、完済するのは10年若いときだった。NISAを続けながらローンを返せていたかもしれない。金利の選択肢も、また違っていたかもしれない。まさかこんなにインフレが進むとも思っていなかった。言っても仕方のないことですが。
先送りにしていたことに明確な理由があったわけでも、たった「まだ大丈夫」と思っていただけでした。でも、今この記事を読んでいる方が、我が家より少し早くこういう数字と向き合えたなら、それだけでこの記録に意味があるかもしれない、と思っています。
後悔を引きずるつもりはありません。決めたのは今、動いているのも今、10年前の自分たちには、FPの話を聞く準備も、具体的な数字と向き合う覚悟も、たぶんなかった。遅かったかもしれないけれど、今日ここで話を聞いたことは、間違いなく正しい一歩だったと思っています。
霧は晴れなかった。でも、上限は分かった
FPの面談を2回終えて、「すっきりした」とは正直言えません。
9,000万円という数字は出ました。でもその数字の中で何を優先して、何を諦めるかは、まだ何も決まっていない。金利をどう選ぶかも、NISAをどうするかも、両親とどう話し合うかも、土地のエリアをどこまで広げるかも——全部、これからの話です。
決断するのも、責任を取るのも、最終的には自分たちです。FPはその前提を崩さずに、ずっと話してくれました。何かを強く勧めるわけでも、不安を煽るわけでもなく、数字を丁寧に並べて、あとは私たちに委ねてくれた。それは、誠実な向き合い方だったと思います。
手探りのまま、ということに変わりない。でも、「上限の目安」という地図の端っこだけは、手に入れた。そういう2回目の面談でした。
マンションという選択肢が、夫から初めて出た夜
帰ってから夫がぽつりと言いました。
マンションという選択肢もあるかもね。
たしかに、と思いながらも、田舎の戸建てで育った夫婦には「マンションで暮らす自分たち」がうまく想像できない。「ありかも」は、本音というより現実の重さを吐き出したひと言だったと思います。
9,000万円という数字を受け取った夜は、静かに過ぎていきました。でも翌朝、夫がテーブルにメモを広げていました。「駅からの距離別に土地の相場を計算してみた」と言いながら。重さを受け取ったその夜のうちに、もう次の一手を考え始めていた。落ち込むより先に手を動かしてしまう人なのだと、改めて思いました。
2回目の面談で本当に持ち帰ったのは「判断の軸」だった
この面談で得たいちばんの収穫は、「数字」ではなく「判断の軸」だったと今は思っています。上限がわかったから、次は「何を優先するか」を決められる。霧の中でも、一歩分だけ地面が見えた——そういう2回目の面談でした。
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この話のポイント
- 9,000万円は「ゴール」ではなく「上限」。その数字の中でも、エリアか仕様かどこかを諦める選択は続く
- 「収入が下がる前提で70代後半まで返済」——自営業にとってのシミュレーションは重い現実だった
- 霧は晴れなかったが「上限の目安」という地図の端っこだけは手に入れた。次は「何を優先するか」を決める番
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筆者より一言
9,000万円でも足りないと言われたとき、予算の考え方を根本から見直すことになりました。
あなた、経済の専門家でも株式の専門家でもないでしょ。根拠のない勘でローンの額を決めるのは怖い。保守的にして。
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💬 よくある質問
- Q. 借りられる上限額で、希望通りの家は建てられる?
- A. ローン上限額には土地代・諸費用・外構・建物本体・オプション仕様まですべて含まれます。土地代と諸費用を引いた残りが「建物に回せる額」になるので、希望仕様(自然素材・造作家具など)を全部盛りすると上限を超えがちです。優先順位を決めて、削るところを早めに決めるのが現実的でした。
- Q. FP相談を2回受ける意味はある?
- A. 1回目で家計全体を整理し、2回目で具体的なシミュレーションに進む流れには意味があります。ただ、FPで提示される「上限額」は家計から逆算した参考値であり、実際の家づくりでは土地・諸費用・建物オプションを積み上げると上限を超えることもあります。それでも、判断軸となる数字を持って工務店との打ち合わせに臨めるのは大きな価値だと感じました。流れの全体像はFP相談まとめにまとめています。
- Q. 「霧が晴れない」と感じる時期はどう乗り切る?
- A. 数字が見えても判断軸は揃わないものです。我が家は土地探しを並行して進めながら、現実の制約と理想を擦り合わせていく方針に切り替えました。






